| 邦題『タイニー・ティムに神のご加護を』。
ビートルズがファン・クラブ用に作っていた『クリスマス・レコード』。基本的に滅茶苦茶さがコンセプトだし、出典不明な音源や意味不明な発言が多いが、その中でも「あんた誰?」度が非常に高いのがタイニー・ティムだ。
『ホワイト』が出た後の68年、かなり勝手バラバラ度の高まっていたこの年の『クリスマス・レコード』は、メンバーが各々録音した音源をディスク・ジョッキーのケニー・エヴァレットがコラージュしたもの。タイニー・ティムは途中、リンゴとの電話での変な会話で例のチリメン声を張り上げている。
さらに後半、ジョージの正式な紹介で、「今晩はスペシャル・ゲストを迎えています、タイニー・ティムです」と再登場。「ちょっと歌ってくれる?」というジョージの頼みに応じ、ウクレレをつま弾きながら「一人ぼっちのあいつ」を超裏声、超ちりめん声で歌っている。最後まで思いっきり歌いきっている。そして聴く度に思ってました。
「あんた誰?」
まあ、ビートルズ周辺には色々人物、ミュージシャンが出入りしているが、正式なアルバムではないにしろ、これほど堂々歌声を披露しているのは、『マジカル・ミステリー・ツアー』におけるボンゾ・ドッグ・バンドと、この『クリスマス・レコード』のタイニー・ティムくらいのものだろう。
正直言ってこのおっさん(タイニー・ティム)、私、長いことミュージシャンだと思っていませんでした。なんかお笑い関係の人か何かかと思っておりました。
それが急に彼に興味を持つキッカケになったのは、ニルソンを最近を熱心に聴くようになってから。ニルソンが73年に発表したスタンダード・ナンバー・カバー集『夜のシュミルソン』はご存じでしょうか?
流麗なストリングス・アレンジをバックにニルソンが渋く繊細に歌い上げる、非常に美しいアルバムです。
同傾向の作品としてリンゴの『センチメンタル・ジャーニー』があって、そこら辺がアルバム・コンセプトの元ネタだと思っていたのですが、実はそうではなく、68年発表のタイニー・ティムのこのアルバムに触発されたらしい、と最近知りました。
68年と言えば、ビートルズ『クリスマス・レコード』にも登場した年。それにプロデューサーは『リンゴ』やニルソンでお馴染みのリチャード・ペリー。これは聴かねば!
で、速攻聴いて驚き! やっぱ結構いいアルバムではないか! ちょっと変だけど! ちょっとチリメン声だけど! いや、かなり変だけど!
かなりチリメン声だけど!
彼はどうカテゴライズされるべきか躊躇を感じてしまう濃いキャラの人物であるが、基本的にはウクレレ抱えたミュージシャンであることは間違いない。50年代からアメリカで活動を始めており、リプリーズからこのファーストが出た時は既に36才だったそうだ(彼の正式な生年月日は諸説あるそうです)。
で、さらに驚いたことにこのアルバムは大ヒットしていたという事実。全米7位を獲得。つまり、僕からしたら「あんた誰?」なタイニー・ティムも『クリスマス・レコード』に登場した当時は時の人であり、大人気者であったのだ。「一人ぼっちのあいつ」を歌い終わった後、ジョージが彼に"Thank
you, Tiny. God bless you, Tiny"と言うのだけど、これも大ヒットしたこのアルバムのタイトルを前提にした一言なのだろう。
さてアルバムの方だけど、まず『クリスマス・レコード』では単なる変な野郎としか思ってなかったタイニー・ティムが意外に歌が上手い、というか味わい深いことに驚かされる。ハイ・トーン・ボイスだけでなく、低いバリトンを聴かせてみたり、芸歴長いだけあって、かなりの歌技、歌芸、歌声を披露しまくっていて飽きさせない。
そして、プロデューサーのリチャード・ペリーと言えば、『リンゴ』を聴けば分かるが、トラディショナル・スタイルから軽いポップ/ロック的アレンジまで堅実にこなすかなりの本格派。この人が絡んだ駄作というのも全く覚えがない。
リンゴの『センチメンタル・ジャーニー』、ニルソン『夜のシュミルソン』にボンゾズのストレンジさを注入したようなこのアルバム。意外とはまる人は多いのでは。
話は逸れるが、ティムと同じく、「ミュージシャンなの?か?」という濃いキャラだったヴィヴィアン・スタンシャルにもこの手のスタンダード・ボーカル集を出してもらいたかった。きっと味わい深い仕上がりだったろうに。
残念ながらヴィヴもティムも既に故人です(それぞれ95年、96年逝去)。合唱。合掌。
(うらわ) |