| アルバムというフォーマットはビートルズが本格的に広めたことになっているが、まあなかなかどうして素晴らしい芸術形式だと思う。シングルで3分の曲を表裏楽しんでいたのが、突如LPのA・B面で40分程の世界に広がったわけだ。
CD時代になってからは74分くらいまでOKなわけだが、ぎりぎりまで使っているのは希だろう。現在新譜として出されるものでも、大体50〜60分程度が平均的だろうか。そこら辺が作り手にとっても、聴き手にとっても集中できるぎりぎりの線のような気がする。
徐々にネットによる音楽配信も本格化してきて、なんとなく時代は逆行しつつある気配もある。好きな曲だけダウン・ロードして聴く。まあ、それはそれはいい。CDというはっきりした形態がなくなっていく。それもそれでいいような気もする。音楽というのは所詮抽象的な、刹那的な芸術なのだから。元々は目の前に演奏者がいて、その場で演奏して、それを楽しんで、おしまい。煙のように消えておしまい。録音してずっととって置こうということ自体、考えてみればあざといような気もする。
でも、まあ僕はLPからCD時代になったときも非常にその失われていくもの達を惜しんでしまったようなタチで、だんだんアルバムという形態が失われていく気配を感じて、早くも感傷的な気分になっている。
所詮音楽のフォーマットなんて人は世に連れ世は人に連れで、次々変わっていくことは分かっている。その度に色んな人が金儲けをしたり、悲しんだり、文句を言ったり、喜んだりするのだろう。僕も同様、悲しんだり文句を言ったり、喜んだり。(お金はもうけられないのは残念だ)
CDのボーナス・トラックというのも、LPより収録時間が長いフォーマットに移り変わったことによって生まれた「おまけ」だが、某有名検索エンジン付属の掲示板に「CDのボーナス・トラックはいらない」なんていうトピックがあるように、嬉しい反面、時に迷惑に感じることがある。少なくとも元のアルバムの世界を壊すような入れ方をされると、かなりつらい。
ボンゾ・ドッグ・バンド解散後、グリムスに顔を出したり、自身のバンド、ザ・ワールドを経て73年に出されたソロ名義初のこのアルバム、これも何回か再発をされてきている。最初は"Neil
Innes A-Go-Go"という別タイトル・別ジャケでLP再発。中身は全く同じだけど、変な化粧に変な格好のイニスのジャケは一見別物。
2回目はCD。"Re-Cycles Vinyl Blues"というタイトルで、かなりボーナス曲を加えた形で出ている。それも、アルバムの上にシングル、終わりの方にライヴを加えるというかなり変則的な形。ジャケも勿論全く別。
イニスという人は自分の音楽の発表フォーマットには殆どこだわりがない人のようで、CD化に際しては"Recollection"シリーズにしてもそうだが、LP時代のアルバムの形態は簡単に崩してしまっている。多分、「最初に曲ありき」の人なのだろう。だから、ボンゾズ時代の曲をソロになってからもバンジョー片手にさらっとやったりして、全く気負いがない。リメイクとかもかなり多い。
と、送り手の本人は全く感傷もてらいも無いのだが、どうもこちらは気にしてしまう。実は僕がこのアルバムを最初に聴いたのは先のボーナスたっぷりの"Re-Cycles
Vinyl Blues"。彼の作品としては初めてCD化されたものなので飛びついて買ったが、なんとなく腑に落ちなかった。初めて聴いた形がそれだったにも関わらず、不自然な感じがすごくしたのだ。とっちらかった感じで、面白い曲もいい曲もあるとは思ったが、なんとなくCDを通して楽しめなかった。
で、自分で"How Sweet To Be An Idiot"収録曲だけ抜き出して元のアルバム通りに並べてから聴き直してみたのだが、想像通り、この方がずっとすっきりしていて素直に「いいアルバムだな」と思えた。
文字通りのプロローグ[1]から始まって、メドレー形式のオールド・スタイルのロックン・ロール[2]、ボンゾズ時代のメロディックな作品を思わせる[3]や[9]。ややふざけ気味の[4][5]も楽しい。フランス語で歌われる[8]はタモリのレコードに通ずる何かがあるのか?
そして、オアシスが「ホワットエヴァー」でパクった名曲の[6]。ピアノのみで歌われるこの曲と、ジャケのイニス像にこのアルバムは象徴されていると思うのだ。途中おどけた冗談っぽさも加えながらも、どこかシリアスでセンチメンタルな曲調、歌声。頭にアヒル、股間に風船というふざけ切った格好ながら、セピア色でその表情はどこかさびしげなイニスの写真。
この素晴らしいアルバム世界を、いくらサービスとはいえ、簡単に壊されてはたまらないなあと思うのですよ。
アルバムの最後を飾る[11].。タイトルにもシンプルな歌詞にも彼の「歌ありき」な姿勢、彼の単なる「唄歌い」としての姿がよく表れていて、しんみりとさせられます。
参加ミュージシャンはアンディー・ロバーツ、オリー・ハルセール、ゲリー・コンウェイ、デイヴ・リチャーズらほぼグリムスの面々。全編聴かれるオリー・ハルセールのギターは、イニスのピアノと共にこのアルバムの音の重要な色彩になってます。
(うらわ) |