| いわゆるレコード/CDその他フォーマットは何でもいいけど、アーティストが作ってレコード会社が配信する音楽は、当然、市場原理がほとんど働かない。レコード会社が何をリリースするのかしないのかを決め、値段はいくらにするのかも決める。ある意味、一人のアーティスト・一つの作品それぞれに完全独占市場が成立してるわけで、リスナーは基本的にそれに従うしかない。
まあ、いわゆるポップ・ミュージックが「創造的作品」と「工業製品」の中間物として成立するために過去数十年の試行錯誤の末、現在の形が出来上がったわけで、仕方が無いというか、それなりに理にかなった形態ではある。
「価格面」で市場原理が働く数少ない場面の一つは、国内盤/輸入盤の値段差だろうか。それが証拠に、日本人アーティストのCDの多くは、洋楽ものより数百円高くて当たり前という感じで未だ売られている。
もう一つ、「何をリリースをするか、しないのか」という面で市場原理らしきものが働くのは正規盤/海賊盤の戦いでしょうか。
もともと僕は海賊盤というものに否定的というか、生理的に好きではないところがある。これは主にアーティスト側の気持ちを想像してのことで、「出す気がないものを出される」のは嫌だろうな、という位のことです。
一方レコード会社からしてみたらそんな呑気なことは言ってられないわけで、おぜぜを稼ぐせっかくの機会をみすみす逃すことになる(時には海賊盤のせいで、初めてそういう市場の存在に気づくこともあるでしょうね)。で、「海賊盤キラーの正規盤」を出すことになる。
私の思いつくビートルズがらみの「海賊盤キラー」で代表はつぎのようなもになるだろうか。
・数多くの海賊ライヴ盤対策として出された本盤『ザ・ビートルズ・スーパー・ライヴ!(アット・ハリウッド・ボウル)』。
・BBC音源海賊盤対策の『ザ・ビートルズ・ライヴ!!アット・ザ・BBC』。
・『ウルトラ・レア・トラックス』や『アンサーパスド・マスターズ』シリーズ、『ゲットバック』音源、『セッションズ』音源、『デッカ』音源(これは海賊盤ではなく一応正規盤としても流通したが)、これらを纏めて退治するために作られた『アンソロジー』3部作。
・『ロスト・レノン・テープス』シリーズ対策の『ジョン・レノン・アンソロジー』。
ポールは「どうせ海賊盤とし出ちゃうから」ということで「公式海賊盤」として『アンプラグド』を出しましたが、既存のブートを退治することにはあまり熱心ではないようですね。退治するために色々出していただきたい。
さて、本作『ザ・ビートルズ・スーパー・ライヴ!(アット・ハリウッド・ボウル)』だが、77年という非常に中途半端な時期にリリースされたことからも海賊盤対策なのは明らかだけど、さすがに正規盤、素晴らしい内容だ。
まず、本作のプロデュース/リマスターを担当したジョージ・マーティンのお話から。
ジョージ・マーティンは当初、ビートルズのデビュー・アルバムにキャバーン録音でのライヴ・アルバムを考えていたいうのは有名だが、十分な音質クオリティーを得られないと分かるとあっさりその考えを捨て、「準スタジオ・ライヴ・レコーディング」という考え方で『プリーズ・プリーズ・ミー』を製作したのも有名な話だ。
このエピソードは二つのことを物語っていると思うのですよ。まず、ジョージ・マーティンは、初期ビートルズの持ち味はライヴでこそ発揮されると考えていたということ。もう一つは彼の一貫した音質へのこだわり。(後で書くが、これは20年後にも響いているような…)
マーティン氏自身のライナーによると、64年8月のビートルズ・ハリウッド・ボウル公演のライヴ録音が企画された時点で、彼はあまり乗り気ではなかったそうだ。理由は先に挙げた音質面での問題。翌65年8月公演も同様に録音を試みているが、満足な結果を得れず、お蔵となっている。
それが77年、先に挙げたような理由で、米キャピトル主導でリリースされるにあたって、結局ジョージ・マーティンはリマスターを引き受けている(エンジニアはジェフ・エメリック)。多分、さぞ、嫌だったろうと思う。過去の自分の失敗作(?)をもう一回手掛けなくてはならなかったのだから。
しかし、それ以上に「初期ビートルズのライヴでの魅力」に抗うことが出来なかったのだろう。確かにキャーキャー黄色い声援も凄まじいが、演奏はもっと凄いのですよ。
[6][7][8][11][12][13]が64年8月23日公演からのテイク、残りの[1][2][3][4][5][9][10]が65年8月30日公演からとのこと。
モニター用スピーカーもなく、ビートルズ自身、自分達の演奏をよく聞こえない状況下だったそうだが、いいのだよなこれが、奇跡のように。
奇しくも同じ77年にリリースされた(というか世に流出した)62年のスター・クラブでの演奏が、若さに任せた走りまくガナリまくりのパンキッシュなものだったのに比べ、この頃のビートルズはちょっと不思議なくらい演奏がどっしりしている。
ライヴというのはどうしても走りがち(早いピッチになりがち)になるものだが(例:ジョージ・ハリスン日本公演)、スタジオ録音に比べてもややゆっくり目なのではないか?と思うくらいどっしり落ち着いた風格ある演奏である。リンゴのドラム、ジョージのギターの安定感、各ボーカル/コーラスの丁寧さが特に印象的。ジョンもポールも声の調子はバッチシだったようだ。
それが翌66年くらいになると「どーせ客はおれ達の演奏なんて聴いてねーし」的な結構いい加減なものになってしまうわけで、このアルバムはライヴ・バンドとしてのビートルズの一番いい頃を見事に切り取っている。
まず、選曲に文句はなし。二つの公演を合成した「仮想的な」ライヴだが、メドレー的オープニング[1][2]、各ヒット曲の配置、ジョージ、リンゴの見せ場もきちんとあるし、当然締めは[13]である。やっぱ「アイム・ダウン」じゃだめでしょう、締めは。
細かいお気に入りを書くとまず、[3]のジョンのボーカルが最高。丁寧でいてハラワタ搾り出しボーカルであり、正規バージョンよりこちらの方が僕は断然好き。
MCなしで突然イントロがはじまる[7]はやはりこのシャッフル・ニュアンスが最高であり、例のブレークが絶対必要であり(ブレークが終わった瞬間呼応してでかくなる歓声も最高)、ポールの煽るようなコーラスもイカスわけです。
はっきり言って初期の定番曲[5][9][10][11][12]辺りが素晴らしいのは当たり前なのであり…
ってここまで書いていておいてなんですが、やっぱりビートルズは圧倒的であり、とにかく誰が聴いたって、こりゃいいに決まってるので、以下略。というか、こんなページをやっていてなんですが、ビートルズそのものを語るのは割りと苦手だったりします。
ですが、一つ言い残したことが。なんでこれって、CD化されないの? まあ、出された時の事情はともかく、これは77年にリリースされたものであり、つまりジョンの生前に出されたわけで、(おそらく)四人のゴー・サインをもらったアルバムのはず。テイク違いの音源を除いて、ジョン生前に一度出されながら未だCD化されていないのはこれだけである。納得行かないのである。『イエロー・サブマリン』リミックスしてる場合じゃない。
本来、87年から始まったオリジナル・アルバムCD化事業のどっかのタイミングでリリースされるべきだったと思うのだが。
これは全く完全に想像だが(妄想かもしれない)、CD化事業の途中から大きな発言権を持ったジョージ・マーティンの意向だったりして…。「やっぱ音悪いからやだ」みたいな。
『アンソロジー』シリーズがライヴ音源にもある程度落とし前をつけてくれるのかと思いきや、シェア・スタジアムを一曲、武道館を二曲収録しただけで、あとは音質重視のせいか、ラジオ・テレビのスタジオ・ライヴばかりである。なんか、ここでもジョージ・マーティニズムが生きているような…。
でも、もう一度言いたい! やっぱこのアルバムは一度出しちゃったんだし、CD化すべき! 今は中古レコードで安価で(多分定価よりも安く)手に入るけど、そのうち入手困難で泣く、みたいな状況になるかも!
まあ、その時はまた海賊盤がガッと出て、またぞろキラー正規盤が出たりするのかもしれないけど…。(うらわ) |